パパさんの生活 〜ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」をマジメに考えよう!

新しい社会の実現に向け、2009年に育児・介護休業法が改正し、翌年には<イクメン>が流行語となるなかで、今や仕事も家事も一挙に請け負う、現代版の「素敵なパパ」スタイルが、当たり前に期待されるムードがあることと思います。
一方で、目今、歯止めのかからない少子超高齢化の影響により、社会保障制度の不安や、介護の問題については、実生活において、わたしたちの誰もが身近に感じている問題となっているのでないでしょうか。
また、内閣府「男女共同参画白書」に拠ると、不況の影響により共働き世帯が増加していることも、揺らぎのない事実。
そんな現状を、一家の大黒柱であるパパたちがどう乗り越えていくのか。

9月初旬に本屋B&B(世田谷区、下北沢)で開催されたイベント『俺たちの働き方改革ナイト~ワーク・ライフ・バランス、イクメン現象の虚像を剥ぐ~』における、常見陽平(働き方評論家)と、おおたとしまさ(育児・教育ジャーナリスト)両氏の対談をご紹介し、これからのパパさんたちの生活の有り方を見つけたいと思います。

女性の社会進出 × 男性の家庭進出

「ニッポン1億総活躍プラン」と銘打った安倍内閣の政治方針のもと、女性が活躍する社会の実現や組織風土の改革を行おうと、度々メディアでもこの問題について取り沙汰されています。例えば、昨今のブログで話題になった「保育園落ちた日本死ね」については、待機児童問題と働けないママの現状が浮き彫りとなり、大きな波紋を呼びました。そうした理想と現実のジレンマに立つ女性と、未だ就業優位とみられる男性との夫婦間に、<産後クライシス>が起きていると、おおたとしまさ氏が説きます。<産後クライシス>とは、出産後の夫婦仲が険悪になること。特に、妻から夫への愛情が急激に冷めてしまう現象であるのだそう。
また、家事労働ハラスメント、通称、<家事ハラ>といった言葉もしばしば耳にするようになりました。
男女共同でフルタイムでの働きが求められた時、これまで多くの女性が無報酬で担ってきた家事労働の負担を、一体誰が請け負うのか。確かに、定まった職場での常勤を望む者にとっては、会社や当人以外の子供を理由にした急な欠勤申請はしヅラい。同僚からも白い目で見られる可能性がある…。そう考えると、<家事ハラ>は、現代の新しい視点に立った時に生み出された、問題提起の言葉とも言えますね。
働き方評論家である常見陽平氏が、「サザエさんやちびまる子ちゃんは、家族のロールモデルとしては破綻しており、時代劇としてみるべき。(ドラえもんでもTVがデジタル化するなど時代の変化への創意工夫がなされている。。)」と述べ、会場の笑いを誘いました。
各所帯の昭和イメージが崩壊し、21世紀型の新しいライフスタイルが求められるなか、結果、真面目に働く男性が、うつや脱毛などの症状で体調を崩すといった事態に苦しめられているといいます。一体どうなっているの!?

イクメン! 肥大なイメージが及ぼしたもの

先に挙げた<イクメン>とは、「子育てする男性(メンズ)」の略とされる。男性の子育ては、厚生労働省によって育児休業の取得促進が行われるなど、今や国家的なプロジェクトとなっています。先進諸国の中でも日本の男性が家事・育児に充てる時間は低く、それが子作りや妻の就業維持について悪影響を及ぼしているとされているのです。現状、育休取得率がたったの2.65%であるのに対し、2017年度には10%に引き上げることが提言されています。
しかし、前出のイベントでは、以下のことが指摘されます。
「<日本人男性の家事時間は世界最低レベル>とされるがそれは違う。現状は、OECD加盟国の平均的な男性の仕事と家事の合計時間よりも長く働いた上、62分間の家事を毎日担っているのだ 」
62分間という家事時間は、OECD加盟国平均の半分以下に相当します。しかし、この言葉に準じると、日本男性はいかに、労働全体に費やす時間が長く、家でも企業でも酷使されている状況が窺えます。

今以上に育児や家事に関わりたいと思っている男性が増えているにもかかわらず、育休率は上がっていない理由としては、単純に育児休業制度を利用して会社を休むと収入が減るからといったものではありません。第一として、職場での受け入れがなかなか進んでいないことにあります。未だ多くの職場において、家庭内の諸事に際しては、社員が勝手に集約労働してくれることを求めています。こうした状況に加え、男性にはこれまで頑張ってくれた愛する妻への負担を減らさなければならない、といった責任も担います。
結果、他人の期待に応えようとする誠実な男性であればあるほど、仕事と家庭の板挟みに遭い、たとえ過重労働となろうとも、本音が言えずストレスが溜まっていくといった状況に陥っているのです。

また、<イクボス>と呼ばれる、組織で育児に理解のある上司という存在は、部下に育児休暇を認めながら、業務も向上することを実証しなければなりません。イクメン・プロジェクトは当人だけでなく、上司にも負担が及ぶ事があり、政策の違和感を感じさせるものとなっているのです。

育児と家事時間 or 労働時間

育児を行いながらの夫婦間の就業方法は、様々な形があります。仕事に燃える妻を持ったある家庭では、妻が労働基準法で定められた出産後8週間の産休を6週間で切り上げ、その後の育児は夫に委ねて働きに出るといったケースもあったそう。夫はイクメン中、資格取得をし、趣味のギターもセミプロレベルまでに上達しました。夫にとっては、妻を支えるという大義名分のほかに、本人のリフレッシュにも繋がったのではないでしょうか。まさに、夫婦がそれぞれの役割を補完しながら、共存共栄を果たした家族例といえます。
しかしながら、根本的には、体力面で、一般に男性の方が女性より頑丈とあるいえます。育児面では、子供に対しておっぱいをあげるなど、女性でないと適さないことがあります。そのため、女性の本音としては、「男性は外でしっかり働いて欲しい」といった声が多いのです。女性が男性に求めるのは、家事シェアというよりも、まずは、男性からの労いの気持ちや共感を得たいだけと言った意見もあります。
また、家事育児と親の介護が重なって立ち行かなくなり、倒産した経営者の例もあります。会社を再建したのちは、自身の体験を踏まえ、在宅勤務やフレックスタイム制、週4日制などの働き方を取り入れているそう。ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」を重視した新しい働き方の実現に向かっていると言えます。その他、ライフ重視の働き方としては、テレワークの活用やフリーランスへの転身があります。

まとめ

社会構造の変容の過渡期とも言われる現代、日本は未だ、1980年代の企業中心のライフスタイルを引きずっているのかもしれません。それは、80年代に親の背中を見て育ってきた子供たちが、今育児を行う側の世代に推移しているからです。
男性であれ女性であれ、多くの労働者が、仕事と家庭の間でキャパオーバーとなり苦悶する事情を見てきました。ひとりが全ての労働を一挙に引き受けることはできません。
イクメンを増やす目的なら、企業のワークスタイルの変化推進や啓蒙が必要となります。国や企業が対応していないのであれば、各世帯の主が舵を取り、ライフスタイルの変化と多様性を受け入れ、時に応じた思い切ったトレードオフが大切となってきます。